
岩本和子が映画デビュー
今から110年前、文豪・森鴎外が明治42(1909)年に発表した催眠犯罪小説を原作とする映画『魔睡』。同作が「映画デビュー」となる岩本和子(43)は大学教授の貞淑な妻を艶やかに演じた。その熱演ぶりと女優としての魅力を倉本和人監督が語る。
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文学作品を原作にしようというのは当初から決めていましたが、色々と悩むなかで鴎外の『魔睡』に出会いました。この作品は当時、「大学教授の妻が医師により催眠をかけられて猥褻な行為をされた」と訴えて騒ぎになった実話を基にした物語。岩本和子という神秘性も湛えたキャラクターにも合っているなと感じました。
撮影は10日間ほど。和子さんは長ゼリフも完璧でしたし、何より濡れ場シーンへの心構えが良かったですね。4、5シーンほどあるのですが、それぞれのシーンの意味をしっかり理解していて、「大した女優さんだな」と思ったものです。でもね、僕が一番驚いたのは、全て撮り終えた後に彼女は濡れ場どころか演技もほとんど初めてだったと聞かされたことです(笑い)。
◆“痛みの顔”が素晴らしい
僕はこれまで滝田洋二郎監督の『痴漢電車』シリーズなどのピンク映画やVシネマで多くの女優さんを撮ってきましたが、彼女が演じた大学教授との初夜のシーンは僕の人生のベストですね。「瞬きを少なめに、キスはしっかり濃厚に」としか指示を出しませんでしたが、愛おしい夫を抱きしめる腕の動き、相手を受け止める視線の動き、全てパーフェクトでした。